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カチカチカチ…
時計の針の音が聞こえる。頭の中で刻まれているみたいに。
俺はスラムみたいなところにいた。日本には滅多にそう言うものはない。だからか、少しそのスラムに違和感を感じる。
だが、本物のスラムと言うものを知らないから何とも言えないのだが、少し心に引っかかるものがあったのだ。
ただ、一つだけ確かなのはここにいる人達はみんな生気が感じられなかった。みんな俯いて座っている。いったい何なんだろうこの場所は。
そのとき、俺の右手を誰かが引いた。
「?」
俺は右を向き、相手を確認した。だが、その瞬間俺は言葉を失うことになる。
「!」
俺の手を引いていたのは、「俺」だった。
声も出ないし、抵抗も出来ない。ただひたすら俺は「俺」に引きずられた。
俺の意識が途切れる直前、今までうつむいていた連中が一斉に俺を見た。
「!!」
その顔は…
その顔はとても酷かった。
何度も鏡で確認するが、これは酷い。何か無理やり起こされた感じの顔である。
ただ、今家には誰もいないはずだ。姉は大学のサークルの集まりがどうとかで、叔父はすでに仕事に行っているはずである。
つまり、俺は無理やり起こされた訳ではない。いや、正確にいえば、誰かに起こされた訳ではない。犯人は床に転がっている目覚まし時計だろう。
元々寝起きが良い方ではないので、朝はつらい。いわゆる低血圧という奴だろうか?
…何か聞きたそうな顔だな。俺を起こしてくれる幼馴染はいないのかって?
残念だが二人とも部活で朝は早く、俺が起きる時間にはすでに学校だろう。なお、誇れることではないが俺は現在、中学から5年間帰宅部を継続中である。帰宅術をそのうち極めてしまうのではないだろうか。
そんなこんなで、俺の生活は始まる。
すでに出ている朝食を食べ、歯を磨き、着替えを済ませる。そして見事に遅刻ギリギリの時間。
だが心配はいらない。学校はすぐ近くだ。だからこの高校を受験したのだけれども。とにかく、5分あれば走って間に合う距離に俺は住んでいる。八時半までに登校をしなければいけないから、八時二十分に家を出れば間に合うだろう。
いつも大体そんな感じで登校し、遠くから遅刻を逃れるために走ってきた奴らが、ゼェハァ言っているのを見ている。
そして今日もいつもと変わらないと思っていたのだが、一つだけ異なる点があるのだった。
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