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沖田だけではない。
この池田屋に踏み入ってきた奴等は
皆誇りに満ちていた。
今も吉田の同志達と刀を交える音や声が
この部屋にまで聞こえてくるが
それは決して狂ったものではない。
「長州の方々は皆さん
可笑しなことばかり言いますね」
ふと沖田がゆっくりを口を開いた。
先程の吉田の問いの返答なのだとわかる。
その声色はまるで今
命のやり取りをしている人物のものには思えない。
茶でも飲み交わしているような声だった。
「僕が出来るのはそれだけだからですよ
人を斬ることが出来るから
僕は近藤先生のお側にいられる」
吉田は汗が背中を伝うのがわかった。
真夏の暑さのせいではない。
沖田から感じた純粋なまでの
悪意など一切含まれない殺意。
そして沖田にここまで言わせる
新撰組局長近藤勇への恐怖。
吉田はこの時
浅葱色の死神を前にしていた。
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