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試合が開始する前からずっとグレイサーの視線は私に向けられている。
あくまで相手の剣を受け流すだけのグレイサーに、攻撃に転じる気配はない。
(まさか……)
自分の左側、腰のあたりにナイフがあった。
(趣味が悪い手ね。)
気づいてしまった以上、放置する気にはなれない。
「……サンダー」
詠唱も必要ない雷系初級呪文。
ただし、威力は通常の中級呪文並みに変えてある。
ナイフ目掛けて放たれた電撃は、それを持っていた本人まで瞬時に伝導し……
「ぎゃああぁぁっ!!」
見事に気絶させた。
「おいおい、嬢ちゃん!何、やってんだ!?」
今頃気づくんじゃないわ、店主。
そこに転がっているナイフで、事情はわかったみたいだけど。
「―――しまった」
「あん?まだ何かあるのか?」
「この男、どうしたらいいのかしら?」
縛るものは持ってないし、このままここに置いておくのも邪魔で困る。
「こいつを引きずって観客席を通り抜けるのは無理だな」
「……リング場外に捨てるのはあり?」
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