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「……男にそんな熱視線を向けられても嬉しくないんだけど?」
「ああ、すまない。エルフが珍しくて、ついな」
我ながら悪い癖だ。
「……珍しいのはあんたの方だと思うけど」
「そうか?」
「とぼけるな。何が目的なわけ?」
どうやらこのエルフは私が魔族だと気づいているらしい。
面倒なことだ。
悪巧みとは無縁の私だというのに。
「……妻と新婚旅行に来て、成り行きでこうなった。それだけの話だ」
「妻?」
「私の後ろの観客席の最前列にいるだろう?」
声高らかにグラシエールと応援するアイリス。
どう見ても私側の人間だ。
「あれ、人間だろ?少し魔力が強すぎるみたいだけど」
「だが私の傍なら、そんな些細なことを気にする奴もいない。人間は奇抜なものを嫌う者が多いからな」
アイリスの力は味方なら有益だが、敵ならば驚異でしかない。
人間は恐怖とみなしたものを隣人にはできない。
実際は知らないが、アイリスは城に軟禁状態に近い扱いを受けていたらしい。
公務として外に出る時だけが、残された自由だったと聞く。
それだけ不自由な生活を送っていて、アルフレッドとの婚約話の登場。
本人の意思を無視しすぎにもほどがある。
アイリスでなくても何かしら反発したくはなるな。
……もっとも、今では自由すぎる気もするが。
「ふーん……。ま、妻がいようがいまいが、手は抜かないよ」
相手が弓を構えた。
お喋りはここまでらしい。
「その言葉、丁重にそちらに返してやろう」
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