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「そなたは私のために必死だったのだろう?何を謝ることがある?」
「だって心配かけたし……」
「そのきっかけを作ったのは私だ。そなたが気に病むことはない」
それでも納得がいかないのか、アイリスの表情は暗い。
「……そんなに自分が悪いと思うなら、今日の試合終了後に私のわがままを一つ聞いてくれるか?」
「わがまま……?」
「そんなに責任を取りたいなら、取らせる機会くらい与えてやる。それでこの話はここまでだ」
だからその沈んだ表情をやめろ……などと、続けられないのは私の甲斐性なしの性格ゆえか。
だが今度こそ納得できたらしく、いつものアイリスに戻ってきたのだから上々だろう。
私は闘技場へ向かうため、扉に手をかけた。
「――グレイサー」
取っ手をつかんでいない方の腕を突如引っ張られ、頬に一瞬やわらかいものがかすめた。
これは…まさか……
「あ…ありがとう……」
顔を真っ赤に染めて私に礼を言うアイリスに眩暈がしたなどと……っ!
厚意によるものだとわかっていても嬉しいなどと……っ!
死んでも言えん。
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