First Day

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アイリスに何も言うことができないまま、私は身支度を整えた。 そして、この外見を人間に見せかけるために側近――いや、四天王の一人バッカスが作った薬を飲む。 バッカスに受けた説明は確かこうだった。 「さて、魔王様。前回は薬を振りかけるという使い勝手が悪い粗悪品でしたが、今度は大丈夫です。錠剤にしてみました」 「まあ妥当なところだな」 「それで注意事項ですが、服用すると薬の効果が切れるまで魔術が使えません」 「魔術が、使えないだと……!?」 何かあったらどうする気だ。 とりあえず武器だけで対応しろと言うのか。 「そもそも我ら魔族の外見で人間からかけ離れている部分というのは、強すぎる魔力に対応するために変質したものです」 「まさか、この薬……」 「お察しの通り、体内の魔力を一時的に抑えるためのものです。人間には少し強すぎるので劇薬ですけど、魔族なら飲んでも魔力キャパシティの大きさでカバーできますよ」 「……こんなイベントでなければ使えないシロモノだな」 「そうですね。潜入任務などの遂行時に、魔術が使えないのは痛手ですから」 なんとも実用的でない薬だ。 「それと薬の効果の有効時間ですが、魔王様の場合は6時間6分6秒です。6時間計れるアラームを渡しておきますので、残り6分6秒で人目につかないところに隠れてください」 なんて中途半端な時間だ、6分6秒。 まあトイレあたりに駆け込むには十分可能だろうが。 「他に注意事項は?」 「必ず一度薬の効力が切れて完全に元に戻ってから次の薬を服用してください。6分6秒の行動で人目につかない場所に行けないと、元の姿をさらすことになります。」 「わかった」 「それと……万が一と言うこともありますので、これをお渡ししておきます」 バッカスが取り出したのは青色のカプセル型の薬だった。 「これは?」 「中和剤です。まだ実験はしていませんが、理論上はいけるはずですから」 「……その時が来ないことを願おう」 「本当にこれを使わずにすめばいいが……」 今や人間の肌にしか見えない手で、私は青色のカプセルを握り締めた。
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