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それは、あたしが小学校六年生の時。
すっとぼけた母親に、買い忘れた豆腐を頼まれて自転車でスーパーに行った帰り道。
夕日が落ちる直前、世界が真っ赤になる時間帯。
信号が青になるのをを待っていたあたしの目の前に、その子は現れた。
「?」
透き通った白い肌、さらさらの金髪。
洋服から覗く細い手足や大きな頭、四、五歳くらいに見えるけど、さてどうだろう。
あたしが住んでいるのは小さな町で、町内の人間なら一通り分かる。
だけどあたしは、金髪の少年なんて見たことない。
最近引っ越してきたのか、親戚がこっちにいて遊びに来ただけなのか。
何にしろ、小さな男の子が遊んでいて良い時間ではない。
赤信号なのに、ふらりと横断歩道を渡ろうとする彼の小さな背中を、ぽんと叩いた。
「もしもし、ボク」
「……なに?」
自転車に乗ったまま、腰を屈めるあたしに少年は、視線を合わせる。
上を向くと前髪が横に流れ、大きな瞳が露わになった。
うお。テレビでも見たことないくらいの美少年だなぁ。
髪に合わせた金色の瞳、瞳孔は黒。
通った鼻筋、薄い唇。
完璧なバランスの、綺麗な顔。
将来絶対モテモテになるぞ。
日本語が通じることにも感動だけどね。
瞳に純粋な疑問を映す彼のため、自転車から降りてしゃがみ込む。
彼は、何も言わなかった。
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