動き出す悪

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「父さんと母さんの死体は引き裂かれていたらしい。刃物とかじゃなく、力任せに…ね。腕力だけで体を千切られてたらしいんだ。」 「余りにも酷い有り様だったから死体を見せてもらえなかったんだよ。」 そう言って、瞳に悲しみの色を浮かべる。   「…そう。」 一言。カトリーヌはそれ以上喋らなかった。 その時、突如クラクションが鳴り響く。 そこには小さな子供が車道に出ていた。   迫る車。 立ち尽くす子供。 この後どうなるか、考えなくても分かってしまう結末。 猛は走り出した。 子供を助ける為。 一方では人生に悲観していたのかも知れない。   身代わりになって死ぬ事ができれば… そんな思いを胸に、子供を突き飛ばす。   (君は死ぬべきじゃない。死ぬのは僕で良い。)   体を襲う衝撃。 運転手が何か叫んでいる。 (わからない。何を叫んでるんだ?あ、カトリーヌさん…引いちゃってるかな…目の前で人が死ぬんだ。当たり前か…)   視界に映ったカトリーヌ。 その顔は恐怖でひきつっている訳でもなく… 笑っていた。 とても綺麗な笑顔で。 猛が見た最後の風景だった。
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