~ 第四章 天使と悪魔と人間と ~

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 ユリシーズが人間界へ降り立ったのは一昨日のこと。  目的は無論エルが職務を全うしているか、監視をすることだ。  とはいえ、これは簡単なことではない。  仮にもエルは既に二対四枚羽の候補に選ばれているほど優秀な天使である。その察知を潜り抜けて監視をし続けるのは容易なことではないし、事実かなりの苦労を重ねた。  降りた先では霊能者の家系も存在するため、見られたり、気配を悟られないよう天力を使って結界を張り、更に同族であるエルにまで見られないために、それを何重かにすることでようやっと悟られぬようにしていたのだ。  一部知り合いの知天使に造ってもらった天具(てんぐ)、つまり結界を造るにあたっての補助してくれる道具がなければ、昨日の段階で見つかってしまっていたかもしれない。  それだけ天使にも悟られぬように長時間結界を張るのは容易ではないのだ。  人間で例えるならば、本来複数で走る駅伝を一人でやろうとしているもの。  数時間監視をしては一度離れ休憩を挟み、更にまた監視を続ける。  ユリシーズはそんなことを延々と繰り返さなければならなかったのだ。  だが隊長から信頼の元、わざわざ自分のために作ってるれた仕事を完遂するためと、自らを鼓舞(こぶ)し、神経をすり減らしながらやってきた。  そんな中で彼が見たものは、自分がどうしても負けたくないと思っていた者の情けない姿。観察対象にばれているどころか同じ家に住まい、あまつさえわざわざ有体化してまで観測対象者がいる学校へ一緒に通い始めたではないか。  そのような光景をまざまざと、それも心労が重なっているところに見せられ、失望するなというのは無理があるだろう。  そしてそんな者の実力に、ある種の羨望と嫉妬を綯い交ぜとした物を抱いていた自分に対して怒りが湧く。
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