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扉越しに感じていた気配が今では目の前にいることにエルは息を呑む。
床までつきそうなほど長い漆黒の髪。
垂れた目尻は顔全体を柔らかく見せ、柔らかく見える顔は回りにその人を優しく、柔らかく見せている。
それが溢れ出る天力に乗せられてエルを、この場全てを包み込んでいた。
自分がどれだけ場違いなのかをまざまざと見せ付けられ、気後れしてしまう。
そのことに気付いたのかそうでないのか、ルシファーはゆっくりとした動作で歩み、二人の前に立つ。
「楽にして構いませんよ」
これがカリスマなのかと頭の何処かが納得した。
優しい、慈愛に満ちた声音であるも、エルの体は自分の意志とは別に動き、立ち上がる。
だが、それもそこまでだった。
先程まで離れていた存在が、今では一メートルしか離れていない場所にいることに、エルの思考は再び麻痺した。
「エルさん、今仕事が立て込んでまして手が空かず、わざわざ来ていただく形となってごめんなさい……あら?」
「ちょっとエル、しっかりしなさい。エルっ」
そのことに気付いたセレスが小声で呼びかけるも思考は戻ってこず、更に強く呼びかけようとしたところでルシファーより静止が入った。
ルシファーは一度微笑み、エルの眼前に片手を差し出し、パチンッと打ち鳴らした。
すると停止していたエルの脳は再始動を始め、そこで自分がどうなっていたのかを断片的ながらも思い出し、
「す、すす、すみませんルシファー様!」
顔を真っ赤にしながら腰を直角に折り曲げる。
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