~ 第一章 天使の降り立つ日 ~

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「ふぁ~っ」  欠伸を噛み殺すことなく上げ、街中を歩き行くサラリーマンや学生に混じり、同じく学生服(ブレザー)に身を纏わせた少年、阿部清明(あべせいめい)もまたのんびりとではあるが歩いていた。  ゆっくり過ぎる歩行速度は周りからどんどん抜かされ先に行かれるが、時間に余裕があるのか歩くペースが変わることはない。  気だるそうに鞄を引っ提げ、凝っていた首を軽く回し、小気味良い音を立てつつ右に顔を向けると青々とした木々、街路樹が今日も今日とて全方位から吐き出される二酸化炭素を吸い取り、酸素を作り出してくれていた。  朝日を浴びて、作り出されたばかりの澄んだ気持ちの良い空気を胸いっぱいに取り込みつつ彼は昨夜の事を思い出す。  中々寝付けなかった昨日の夜。ちゃんと睡眠をとるためにホットミルクでも飲んで落ち着こうと冷蔵庫へと向かった。しかし普段常備しているはずの牛乳がその時は見あたらず、何故こうなったのか経緯を思い返すと、風呂上りに飲み干したことを思い出し、致し方なしに出かける支度をしたのだ。  いつもはあまり深夜外出をしない彼だが、今日は仕方がないと割り切り、近場のコンビニを目指したのだが、それが失敗だった。  生まれつき霊感を持つ彼はコンビニへ向かう途中バッタリと霊と遭遇してしまった。それも人へ害をなす悪霊と呼ばれる存在に。  普段は魔除けのお守りを持っている清明には気付かず襲ったりしない。そのことをしっかり把握している彼はその時もお守りを持っていたが、いつのまにか効力が消えていたのかその場で襲われてしまうこととなってしまった。  何とかその場は退避に成功し、すぐさま魔除けの呪いが施されてる自宅に帰ろうとしたのだが悪霊に再び見つけられ、その後一晩中町内を走らされるハメとなった。 (あんのクソ悪霊め、どんだけしつけーんだよっ。おかげで寝不足のまま学校に行く羽目になったじゃねーか)  思い返すだけで腹立たしく、表層面にまで浮き上がる眠気が更なる苛立ちを呼んだ。  そんなむかむかする思いを胸に抱えたまま歩いていると、ついっと視界の端に人影が映った。  その存在に違和感を覚え、何かなと苛立ちを抑えつつ何気無しに眼球のみで追ってみると、既に人影は視界内へと収まる位置にまで移動していた。
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