5人が本棚に入れています
本棚に追加
第一弾・壱
「ほら急いで!映画始まっちゃう!」
後ろを振り向きながら走る菜月に危ないよと気怠げに言いながら、小走り。
明るく返事をして赤茶色の髪を靡かせながら前を向いた菜月。
向かう先は交差点。信号は青だ。
横断歩道に践み入る。
嫌な予感がした。
先を走る菜月が離れていく。
ダメ
待ッテ
菜月、
止マッテ…!
視界に入る大型トラック。
「ッ、危ない!!」
「え……?」
キキィィィーーーー
ドンッ
宙に舞う体。
染めたばかりと言っていた茶色が太陽に照らされ、嫌なくらい綺麗に光っている。
スローモーションの様だと思った。
道路に打ち付けられる体。流れていく赤が菜月を染めていく。
新しく買ったと言っていた白を貴重とした今日のコーディネートも。
染めたばかりと言っていた、赤茶色も。
お揃いだったキーホルダーも。
全部全部
ア カ イ ロ ニ
ソ マ ッ テ イ ク
「な、つき……?あ、あぁ、嫌、菜月…菜月…!」
何度呼び掛けてもいつもの明るい笑顔も明るい返事も何もない。
揺さ振っても起きてくれない。
自分の手が赤に染まる。
「い、や…いやぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁああ!!!!」
くるくると光る赤いランプを眺めながら上着のポケットから一枚の白いシンプルな封筒を取り出す。
「亀井菜月。死因はトラックのわき見運転による大腿骨損傷及び大腿動脈破損。出血多量ですか。交通事故にしては綺麗な死に方ですね。」
さて、もう一日遡りましょうかね。
ビルの屋上。強い風が髪を靡かせる。
最初のコメントを投稿しよう!