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一枚の封筒を持ち、自身の足音しか聞こえない静かで薄暗い廊下を進む。
光は所々にある蝋燭という微かな物しかない。
今にも何か出そうな雰囲気がある。
そして蝋燭と蝋燭の間には重苦しい鉄の扉。
刑務所を思わせるそれには三桁の番号が彫られているが、統一性は欠片もない。
005の横は265。379の横は011。
無造作に並べられたそれを目で追いながら、封筒をもつ手に力を込めた。
自分の管轄である棚に入っていた一枚の封筒に驚いたのは記憶に新しい。
ただでさえ自分の管轄は郵便物が少なく、暇なことが多い。
たまに郵便物がきてもそれは者ばかりで、物などあまり、いや全くと言っていいほどないのだ。
物がきたのはいつぶりであろうか。
あまり記憶力が良い方ではないので、覚えていない。
記憶力という言葉でふと思い出した窓口の知り合いを頭の中から追い出し、目的であった番号を視界に収め、足を止めた。
腰についている鍵の束から一つの鍵を外し、扉に差し込む。
カチャリという音が静かな廊下に響く。
扉を開くと蝋燭の炎が揺れた。
「おやおや、これはこれは看守長殿。今宵も大変お美しい。」
「相変わらずよく回る口だ。準備をしろ。」
封筒を目の前でちらつかせ、依頼だと踵を返した。
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