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書類から顔をあげた男に封筒を手渡し、足を組み替えた。
「勿論、やってくれるな。」
それは疑問形ではなく断定だった。
男が断るはずがないと確信があったからだろう。
「ふふふ、私が看守長さんのお願いを断る訳がないでしょう。」
誰がいつお願いをしたというのだ。依頼だと言っておろうが。
開きそうになる口を閉じ、眉間にシワを寄せ睨みつけた。
恐い恐いと肩を竦め、胸に手を置き、恭しく頭を下げる男はどこかの執事のようにも見える。
「謹んでお請けいたします。」
その口からでたのは承諾の言葉。
聞くまでもなかったな。
そっと息を吐いた。
「始めからそう言えばいいのだ。全く、本当に貴様は口が減らんな。」
「減らない、減らせませんよ、減らせないのですから、減らす必要もありませんし、感じません。」
「くだらん。さっさと行け。貴様といると疲れる。」
再び書類に向かい、さらさらとペンを動かしながら、もう片方の手で出ていくよう促す。
「ふふふ、では行って参ります」
恭しく頭を下げ、静かに部屋を出て行く。
遠ざかる足音が聞こえなくなったところでペンを置き、電話を取った。
「聞いていたな。」
繋がっていたのであろう電話からは是の言葉が聞こえる。
「この仕事はもう私の管轄内に入った。余計な手出しをして歪めるなよ。」
そう言うと一方的に通話を切る。まだなにか言っていた気もするが、どうせ小言なので気になどしない。
その際バキッと、何とも軽快な音が鳴ったが、それはご愛嬌ということで。
「やれやれ。遊ばずに早めに終わらせろよ。」
唯一ある窓から見える晴れ渡る空を眩しそうに見つめ、ペンを取った。
第一弾・零 -fin-
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