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「どうしたんだい?棗。額に当ててあるガーゼは。怪我でもしたのかい?」
棗と呼ばれた少女の黒髪を撫でながら穏やかに微笑み彼は聞く。少女は何も喋らない。
「棗、返事は?何かあったのかい?私に教えておくれ。私は外界へは行けない。君もそれはわかっているだろう。」
コクリ、と彼女は小さく頷いた。そして、少し震える声で彼女は喋り始めた。
「…殴られ、ました。」
「誰にだい?」
「向かいに住んでいる‥‥男の子、です。」
彼の笑みが少し崩れた。
「何故、殴られたの?」
「服や、髪の色が変だと言われて…。お前は両親に捨てられて、此処に連れてこられた、と言われて殴られました…。」
彼の穏やかな微笑みはもう無い。今の彼は、残酷な笑みを浮かべて少女の頭を優しく撫でていた。
「そう…可哀想に。君は両親に捨てられてもいないのにね。」
―僕が買い取ったんだから。
「それに髪の色も変じゃない。服だって、良く似合っているよ。」
―僕のお気に入りの色だもの。
「可哀想に…。大切な大切な棗…。痛かっただろう?」
少女は小さく頷いた。彼は、そんな彼女を優しく抱き締めた。
「安心しなさい棗。もう君を傷つける物なんて無くしてあげる。」
―傷つけるのは僕だけで充分。
「さぁ、少しお眠り。その間に、全てが解決しているからね?」
その言葉に、少女は瞼を閉じた。そんな少女を見て、彼は優しく少女を抱き締め、寝台へと彼女を乗せた。オフホワイトの柔らかなシーツが彼女を包む。
「…可愛いお人形。傷つけることが出来るのは僕だけで充分。」
「…大切な私のお人形。壊せるのは僕だけで充分だろう?」
君を造ったのは僕。
君を壊すことが出来るのも僕。
「あぁ…楽しいねぇ…。」
綺麗なものが、崩れ落ちる瞬間はまるで、イってしまいそうな感覚に近いんだ。
「さぁ、お仕置きをしなければ。僕のものに勝手に触れたんだから。どんなのにしよう…。あぁ、此処から居なくなりたいと思わせようか?」
僕の人形を傷つけた罪。
ちゃんと報ってもらうよ。
可愛い可愛いお人形。
従わせるのは、私だけで充分。
可哀想なお人形。
君に泪なんて必要ないだろう?
さぁ、おいで。
僕の傍に。
大切にしてあげるよ、そう大切に。
壊れるくらいに大切にしてあげるから。
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