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「これは……」
彼女が手に取ったものは、
「サッカーボール?」
そう、ボール。サッカーの。
「僕、スポーツが好きなんだ……」
しかし、好きとは言ったものの、共に汗を流すような友人はいない。
「サッカー好きなの?」
「スポーツは、みんな好きだよ」
「そっか。私も運動は好きだよ!」
「君も……?」
「うん、走るのが好きなの!」
「そう、なんだ……。僕も、速くないけど走るのは好き、だよ」
「じゃあ走りに行こう! 鬼ごっこ、優希ちゃん達も一緒に!」
「う、うん……」
零は俺の手を引っ張り、無理やり起立させてから先導する。俺は初めて他人から、しかも女の子から手を握られてどぎまぎしていた。
なぜか気恥ずかしい、こそばゆい。そんな思いが沸き上がり、顔が何だか熱い。
そして、四人が外へ出た。快晴の空の下、俺達は駆け出す。
鬼は俺からだった。
俺は新鮮な気持ちで追いかける。
他人と交わることが、こんなにも気持ちのいいことだったなんて想像もしていなかったのだ。
──不思議なこともあるのだった。
勢いでこんなことになってしまったのに、心地がいい。
今は、零と一緒に何かをしていたい。
そして、零と話をしたい。なんでもいいから聞いてほしい。
なんでもいいから伝えてほしい。
もしかしたら……、それは願いと同義であったかもしれない。
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