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†
夕陽が見え始めた。
妹達は騒ぎながら俺達の何メートルか先を歩いていた。
「あの」
「なに?」
「その、……楽しかったよ」
それだけ言うと、顔を反らした。
照れ臭いのだ。
「私も! すっごく楽しかったよ!」
耳に張りのある心地のよい声が届く。
嬉々としたその声は、俺に安堵を与えていた。口角が自然と引き上がる。
「僕、友達いないから、他の人とあんなに……遊んだことないんだ」
「そうなんだ」
不思議そうに零は俺と目を合わせていた。じっと俺の顔を覗きこんでいる。
「だから、きみが話してくれたり……一緒に遊ぼうって言ってくれたのが、……すごく嬉しかった」
「──違う!」
何かを否定された。
「え……?」
「私は『きみ』じゃなくて、『れい』っていうちゃんとした名前があるの」
「え、え……?」
「きみさっきから私のこと、『きみ』って言ってるけど、名前で呼べばいいじゃない」
ぷぅ、と頬を膨らませて怒っている。怖い。だけど怖くない。
「……零、……ちゃん」
「うん!」
今度はほっこり笑顔。
コロコロと表情が変わる女の子。その無邪気さに惹かれて、笑顔を見つめる。あまりにもキレイで眩しい。
素直に、かわいいと思った。
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