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「──ふみき」
「え……?」
唐突に自分の名前を呼ばれて、驚く。
家族じゃない、新しい声が俺の名前を呼んだ。
「きみ、ふみきでしょ?」
「う、うん……」
「珍しい名前だよね」
「うん……、でも優ちゃんや純ちゃんは女の子みたいだって。僕は……あんまり好きじゃない。それに顔だってこんなだし」
親父がなぜこんな名前にしたのかはわからないが……、せめて漢字にしてほしかった。
そして顔はどうしようもない。
「私はきみの名前も顔も好きよ」
「え、……なんで?」
「だって、すぐにあなたってわかるじゃない」
「?」
どういうことだろう。首を傾げる。
「私がふみきという名前の人に一番最初に巡り会ったのはきみ。そしてきみの、その顔はきみだけのものなの。個性なの。否定することなんてないのよ」
「……」
彼女の言葉に嘘偽りはない。ような気がする。優しさに溢れていた。それは本人の
「あの……零ちゃん」
「なぁに?」
「その……」
「ん?」
「あ、あの……」
伝えたいことがうまく言えない。
尻込みして、声が段々と萎んでいく。
「…………ごめん。やっぱりなんでも──」
「ああ、もうっ!」
膠着した俺に業を煮やしたのか、零は声を荒げて俺を叱った。
「ハッキリ言わせてもらうけどね。ちゃんと口に出して言わないと、なんにも伝わらないの!」
「…………」
まさしくその通り。俺は図星、なにも言い返せない。
なんだか弱い自分が嫌だった。醜く、見るに絶えない自分の姿が、心を絞める。
「だから──」
零が俺の手を両手で握った。片方は負傷している。
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