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†
『──おめでとう』
俺は合格したら一番に伝えろと言った両親より早く零ちゃんに結果を報告した。電話越しの声でも、彼女も喜んでくれているのがわかって、いっそう嬉しくなる。
俺は手続きの書類を片手に、携帯電話をもう一方に、帰路を歩いている。
「まさか受かるなんてな……」
今でも信じられなかった。
『なに言ってるのよ、私があなたに勉強教えてあげたんだから、受かってなかったらタダじゃすまないわよ』
「はは、……手厳しい」
苦笑しながらも、ゆっくりと歩みを進める。
『でも、……おめでとう。よくがんばったわ』
その声は電話から聞こえるのに、すぐ近くからも聞こえるようだった。
「ああ、……ありがとう」
そして振り向く。
顔を後ろに向けた瞬間、細く白い指が俺の頬を突いていた。
「ふふっ……、偉いぞふみき」
零ちゃんの指だった。
彼女は買い物に行ってきたのか、片手に袋をぶら下げている。電話を切って、向き直った。
「どうしたんだ。家にいたんじゃないのかよ?」
「買い出しの帰りよ」
「ふぅん。そうか」
「それじゃあ、行きましょ」
「どこにだよ?」
「決まってるでしょ。私の部屋よ」
「なんで?」
「お祝いに決まってるでしょ。かわいい弟くんのために、ささやかだけどちょっとした催しでも開いてあげる」
「それはありがたいけど……」
弟……か。
昔は俺より背の高かった零ちゃんを今は俺が見下ろす形になっている。零ちゃんよりも背は高いが、彼女も背の高い方なのであまり大きくは離れていない。
と言っても澪ちゃんの瞳には俺がまだまだ子供に見えるんだろう。
だけど同じ立場の高校生になるのだから、土俵は同じだ。
情けないとか頼りにならないなんて言わせないくらい強くなってやる。
それが俺の目標だ。
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