もしもあなたに会わなければ

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俺は前に出てしゃがむ。 「ほら、乗れよ」 「……」 言い出しっぺの零ちゃんは何か躊躇っていたようだが、俺の肩に手を置いてゆっくりと身を預けてくる。 柔い重みを背中に感じながら、立ち上がり、歩き出す。 「ね、ねぇ?」 「なに?」 「私、……重くない?」 背中から聞こえる、呟きにも近い声に俺は苦笑しながら、 「重いって言ったら」 「ウソっ……!?」 「うん嘘」 「…………」 暫時の間口を閉ざしていた零ちゃんだが、 「──ふんッ!」 「ぐえっ……」 からかわれたことに怒りを感じて、俺の首に腕を回して絞め始めた。 同時に体がより密着する。 「ぎぶ、マジでキツイって……!」 「ふんっ! 乙女の純情を傷付けた罰よ!」 気にしてるぐらいなら訊くなって話だ。 零ちゃんいい体してるのに、そこまで気にする必要なんかないだろうに。 「というか、乙女って柄じゃないだろ……」 「なにか言った?」 「いや、別に」 危ない危ない。また失言を漏らすところだった。いや、漏らしたんだけどさ。聞こえてなくてよかった。 「それはそうと、あなた結構成長したのね。なんだか背中が大きく感じるわ」 「それでも親父には勝ってないんだ。相変わらずデカイんだよな、あの人」 父親の身長は俺よりも高い。体格は中肉中背と、バランスが良い。 「確かにおじ様は大柄よね。それでも愛嬌があるから、親しみやすいのよね」 「耳が痛いな……」 親父は顔も強面な方ではあるが、角度を変えれば二枚目にも見える。それに冗談を言うにもそつがない。 大柄と言ってもそれらの理由から相手に恐怖感を与えることもあまりないのだ。
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