もしもあなたに会わなければ

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ある日、家に帰ると、お客さんがいた。 俺の母親と誰か知らない女性が談笑している。その端では双子の妹と誰か知らない女の子が一緒に遊んでいた。 やがて俺の存在に気づいた母親が、おかえりと言い、客の女性は朗らかに微笑んで俺に挨拶してきた。 目を合わせずに会釈した。あまり顔面を晒すのも理由なく嫌に感じていたのだ。 母はそんな俺の態度に失礼と感じたのか、不満な目付きで俺を戒めたあと、軽く客に謝った。 「ごめんなさい、この子人見知りが激しくて」 そう説明する母親は俺を近くまで呼び、お客さんの紹介を始めた。 まず、妹達と遊んでいる、俺よりも背の高い女の子について。 「この子は『棚橋零(たなはし れい)』ちゃん。学年はふみきより一つ上、かわいいでしょう?」 「……」 確かにかわいいと思った。優しさと気の強さが混じったような目に、少し大人っぽさを持ち合わせた顔の造り。髪は地毛で少し茶がかった、僅かにクセが入った長髪。それを左右に分けていた。 妹達は彼女にすっかりなついたようで、甘えるような笑顔を浮かべている。 「そしてこの方が澪ちゃんのお母さん」 「初めまして」 「……………はじめまして」 優しい顔つきの少女のお母さんに対して、俺は無愛想に返した。母はやはり、面白くない表情を浮かべたが、たった一瞬。説明を続けた。 「この人達はね、最近この近くに引っ越してきたんだよ。お父さん同士が友達なの」 母がそう補足してから、零と言ったか、その子が俺の正面まで歩いてきた。恐くて、俯いた。しかし意外にも、 「あなたも一緒に遊びましょ」 「……え?」 彼女の言い分にただ困惑した。
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