もしもあなたに会わなければ

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「──お話しようよ」 零だ。さっきも見た、きれいな笑顔。今度もまた、ただ純粋に微笑みかけている。彼女は手を伸ばしてきた。 少しは見慣れて安心もするが、しかしたまらなくなってドアノブを思い切り引いた。 一心不乱に、何も考えずに引いた。 ──ぐりっ。 「? …………!?」 閉めたはずのドアになにかつっかえて、歪な音がした。かと思えば、妹達が急に叫んだ。 「アニキ、ドアを開けて!」 「早く、おにいちゃん!」 彼女らの声に示されて、そこでやっと気がつく。 「!!」 零の手が挟まっている。俺はすぐさま解放した。 彼女はその手をもう片方の手でおさえながら、痛みに耐えている。 しかし、苦痛に歪むはずの表情はぎこちないながらも笑顔である。気丈に振る舞っているのか、涙も流れていない。 「あ、あの……、ご、ごめ」 「──だいじょうぶだよ」 かなり焦って覚束ない俺の謝罪を遮って、彼女は俺に安心させるように笑んだ。 それを目にした瞬間、罪悪感が沸き上がってくるのがヒシヒシとわかった。 妹達は気が動転しているのか何度も零に調子を訊ね、返答として彼女は大丈夫を連呼した。 そして俺は母親が談話している場所へと脱兎の如く駆け出した。とにかく彼女を助けたくて。 到着した瞬間、叫びに近い声で、 「──助けて!」 ──二人は目を丸くしてから、妹達が騒ぎ立てる二階へと上がっていった。
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