もしもあなたに会わなければ

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† 罰として、ゲンコツを一発母親からもらった。なかなか力の乗ったいい拳だった。 しかしながら、別にそんなの大したことなく俺は部屋でぼーっとしている。痛みもあったかもしれないが、考え事に夢中で痛覚が仕事をしなかったらしいのである。 なんともありがたい。 ──ドンドン。 誰かがノックしている。今度は誰だ。多分母だ。怒っているに違いない。元を辿れば元凶は俺なのだ。 仕方のないことだと思うし、実際俺が零に過剰に反応しすぎたせいも多分に、というか全部。罪悪感は募るばかりだ。 そんなわけで少し億劫に感じながら返事をした。 「……だれ?」 「あ、私だよ」 予想外れの零だった。ドア越しに少しくぐもった声が届く。 「…………」 俺は黙っている。あんなことをした手前、彼女に向かって何を言えと言うのか。 黙秘を続けると、 「あのね、……お話しよう?」 今日で三回目の勧誘。 この子のそれは、俺が誰かに言いたかったこと、言ってほしかったことでもある。 彼女は──零は、自分を見てくれる。 それはきっと幸せなことなのだと思う。 「でも……僕、君にひどいことしたんだ……」 それがさっきから喉に引っ掛かり、ひどく気が重い。 「あんなの大丈夫。だからお話しましょう?」 耳に馴染んだその心地よい声が、安堵を与えてくれたお陰か、思うよりもすんなりと手が動く。 緩慢な動作で扉を開けた。 まるで──知らない世界に飛び出すように。
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