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「やっと開けてくれたね」
目だけを彼女へ向ける。怒りも皮肉もない、純粋な笑みを浮かべていた。
「…………」
俺は緊張していた。
なにより、彼女は本当に怒っていないのか、それが気がかりだった。
零は手を自身の後ろに手を回し、俺の視界からは見えないようにしている。
隠れた手を透視するかのように、凝視する。
「手は……?」
「なんともないよ」
そう言って、手を出した──怪我のある手とは反対の。
俺は本当に負傷した腕を掴み取って、
「あっ……!」
「……」
腕には包帯が巻かれていた。
怪我の証拠を目にした瞬間、罪悪感が沸いてきた。自分がやったのだと、暗い空気が心の中を塞ぎ混んだ。
「──怒らないの?」
「別に、きみのせいじゃないもの」
再度、手を後ろに回した。
俺はなにも言えず、なにも出来ず、立ち尽くした。
やがて、どちらからともなく、俺の部屋に入った。
零がドアを閉め、二人の空間が出来上がった。
男子の為に誂えられていたその部屋では、零は不思議な存在感を醸し出している。
この部屋に入るのは、家族ぐらい、他人など入れたことがない。
二人で床に座る。
それから零は室内を見渡してから一言。
「ふぅん、……きみの部屋ってこうなってるんだ。思ったよりきれいだね」
と言うよりあまりものを置いていない。学習机にベッドとタンス、あとは箱の中には雑多な物物が入っているだけだ。
その中を零は覗きこんで、ある物を見つけた。
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