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「俺にしか姿が見えないからって毎日来る事を期待されても困ります。俺にだって、都合の悪い日や他の用事があるんです。
あと何気に『倦怠期ですか?』とか、彼女的発言は控えて下さいよ」
半幽霊、半人間、半存在。金科先輩は特殊な状態に置かれているからだ。
連鎖する自殺願望の噂。別称、道連れを望む幽霊事件。今回とは違う幽霊騒動が原因で、彼女の存在感が半分になってしまったのだから。
存在感が半分になれば誰からも意識がされなくなる。自分のように、何かしらの接点や縁(えん)が無い限り姿が見えも声が聞こえもしない。実際は見て聞いているらしいが、脳がそれを意識しないのが原因だとか。
あの時の事を思い出す。俺の打つ手がなく、彼女自身が自分の半分と半存在であった幽霊の半分を相殺し、今こうして自身が半存在になってしまったのだ。この現状に少し噛んでいるからこそ。
「彼女的発言のどこが悪い? 私を見える男子は、鳴家君を除いてあの日からいなくなっちゃたんだよ。責任取って、私の婿になってもらわないと。
良いでしょ鳴家君。ちょっとだけ女らしい発育は実ってないけど、一途に思ってくれる姉さん女房が居てくれるのは、男の子にとって嬉しいでしょ。嬉しい……よね?」
潤んだ瞳でそう言われると本当に参る。だが、責任を盾にして交際を押し付けるその非道っぷりと、何より病んでいそうな一途具合はあまりよろしくないのが感想だ。
無い胸を必死に押し当て、腕を絡ませて胸元に寄ってきては女子特有の甘い香りで誘惑してこられる。耐えろ、俺の理性。
心頭滅却、渇ッ!!
男であるからこそ生まれる煩悩を散らし、なんでこんなに女運悪いかなと神を恨みながら。引っ付いて来る先輩を剥がして。
「求婚の脅迫とかそれよりもですね――――――」
「それよりもでじゃないよ。私にとって、一世一代の大問題だよ」
「――――えぇ、ですからそんな事は置いておきましょう。とりあえず要件を先に済まさせて下さい、お願いします」
言葉を遮られそうになったから頭を下げて願えば、「仕方がないな、ダーリンは」と、抑揚なくほぼ一定音の高さで言い、指を頬に押す。金科先輩なりの彼女らしい振る舞いなのであろう。
それにノーリアクションで返して、本題である話を金科先輩に始める。
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