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体が歩き続ける事十数分。女の子が喜びそうな店を通る度に上目遣いで寄ろうなんてお願いし、その度に俺が断ると拗(す)ねてしまうこの人。デート気分一色なのは悪い事である。
真面目に調査する気が欠片でもあるならば、今すぐ腕から離れて欲しい。
一体、先輩は今どういった気分でいるのか? 憧れの彼との初デートという気分ならば即刻お帰り頂きたいのだが、体がそれを許そうとしない。
この状態で噂の元凶探しとはほとほと聞いて呆れる。珠枝(たまえ)辺りにでもバレたりしたら、焼き殺されるかもしれない。
いや、珠枝ならまだしも。ヴィラにこんな所を見られたりでもしたら…………怖さで身震いしてしまう。
「痛っ!」
と、そんな事を考えていたら脇腹に痛感が走る。何かと思って脇腹を見れば、金科先輩が肉を捻り抓っているではないか。
「何ですか金科先輩?」
「今、別の女の娘の事を考えてたでしょ。私という存在がいながら浮気とは酷い」
そもそも付き合っていないのだから浮気とかではないし、というよりもよく分かりましたね先輩。
「女の勘ってやつですか? 凄いですね」
「匂いで分かる。今一瞬だけ別の女の匂いがしたから」
匂いででしたか。さっきの賞賛の言葉は返して貰います。
などとやり取りをしていたら足が止まった。どうやらここが、この時間が、怪事件を突き止める場で時なのである。
青になったばかりの横断歩道の手前、俺達はその場で周囲の流れを無視して止まっていた。辺りを見回せば店ばかり並ぶ通りで、コンビニや韓国料理屋やKDDI印の携帯ショップの他、怪しくも閉まる店を1件だけ発見した。
まさかこの場所、噂で言われていた場所ではないだろうか? 横断歩道を待つと、足だけの幽霊が目撃されたという例の。
そう思い至った時信号は赤になり、信号が連なる大きな十字路に挟まれたここは、本道とは垂直の道であり。つまり、信号の待ち時間が長い事を意味している。
いつまでも腕に抱きついている先輩が、まだかまだかと青になるのを体でリズムを取りながら待っていたら。途端、そのリズムが止んで。
俺が向かされた方向と同じ場所を見て、俺に言う。
「ねぇ、鳴家君。あれってさ」
「えぇ、そうでしょうよ。間違いなくあれが」
今回の噂の元凶。一般道路を蠢く幽霊なのであろう。
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