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今日は満月だ、何も無い新月から徐々に光りを浴び、ようやく満ちた月……私は満月を見つめると空に手を伸ばした。
「……人の腕は短い、空にすら触れる事が出来ないんだから」
月明かりの差し込む室内で呟くと窓を開け放ち、体を乗り出して空を見る。
月の明るさで回りの星の輝きが失せている、満月の特権とでも言えば良いのだろうか……ただこういう夜は気をつけないといけない、背後や隙間、暗闇に。
何故かと問われると様々な理由を上げることは出来るが、一様にコレと言える答えは出ないだろう。
花や石にそれぞれの意味がある、だが何故その意味に成ったかの経緯を私達は知らない、ヒーリング効果が実は無いのかもしれないし、花言葉だって違うのかもしれない、全ては意味を持ち存在しているんだろうけど、昔の人がどのような経緯で意味や効果を付けたのかは、今の私達が理解出来るものなのだろうかと思う。
ひんやりとした夜独特の風が肌を撫で、私の顔が月光に照らされた。
狐のように細い目、薄い唇、青白い肌の色、一度も染めたことの無い腰まである黒髪。
醜いと言われるが他者の意見なんかは関係ない、私は私である、それ以上でもそれ以下でもない。
満月は遥か遠い空で太陽の力を借りて輝いている、青白く艶やかに……人を魅了し狂わせる、月にはそんな力があると思う。
深夜3時、温かみの無い着信音が部屋に鳴り響いた、私は携帯に視線を向けると手に取りディスプレイを見る。
太田 正保(オオタ マサヤス)の名前が表示されている、奴は私が恋人だと周囲に言い回っているが私は奴が好きではない、かといって嫌いでも無いが……
いつまでも鳴り止む様子が無いのがわかると、溜息をついてから着信に出ることにした。
「……」
『佳弥愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛して――』
「キモい、黙れ、時間を弁えろ、クズ、どうせどっかで監視してるんだろうが、出てこい変態、変質者、ストーカー」
『……佳弥、俺に会いたいんだな? 恥ずかしいからってそんな暴言吐いて、なに、そんなに恥ずかしがらなくても今行くよ、君だけを愛しているからね……待っててくれ、愛しの佳弥……』
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