偽りの記憶は身を守るための一ツの方法

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無言の中、着々と進んで行く食事、太田は気まずそうに箸を進めるが私は普通通りのペースで食べているせいか太田よりも先に食べ終えてしまった。 食後のお茶を煎れる為に立ち上がろうとした時、太田はあまり白米の減っていない茶碗と箸を置き私を見据えた。 「良くわからない」 「……」 「けど、羨ましいって思ったんだ、何も無い俺と違って沢山持っているから」 「何を」 「全て」 「勘違いも甚だしいね、私が全てを持っている? ありえない、アンタの方が持ってるじゃない、わざと周囲に嫌われようとして私に執着し、何も無いフリをする、それは誰かに奇人だと思わせたいからか? 私はアンタにそう演じさせる為に存在してるんじゃない、私は生よりもこれから行く死への執着が人よりも強いだけ、あんたに哀れまれるために私は存在してないから‥‥‥とりあえずそれ食べたらさっさと出ていって」 口にした言葉、一体何回こいつに言ってやらないといけないんだろう、めぐる思考と感情に吐き気をかんじつつも太田を無視してお茶を煎る。 叔母から送られてきた緑茶を急須に入れてから沸かしたお湯を注ぎ蒸らす、しばらく蒸らしてからマグカップを二つ用意してお茶を注ぎ太田の前に一つ置き、私の席にひとつ置いてから座って茶をすする、両親は生きているが私の元に顔を出したことは一度もなかった、気づいたら叔母の家にいて、中学からこの家で一人暮らしをしている。 特に気にすることはなかった、叔母は叔母で面倒を見てくれているし私は私で迷惑を掛けないようにしている。 だから太田が毎晩のように電話してこようがストーカーされていようが誰にも言わない、行った時点でどうなるというわけでもない、私は別に好きでも嫌いでも無いし、こうやって食事を一緒に食べてるだけで少なくともしばらくの間は何もされないというのがわかっている。 「それ飲んだら出ていって、これからへやの掃除するから」 「……あのさ、なんか俺手伝えることない?」 「何もないけど」 「なんでもいいんだって、飯食わせて貰ったし毎回飯食ってそのまま帰るのは気が引けるからさ」 「そんなこと思ってるんだったら夜中電話しないようにするぐらい出来るんじゃないの?」 「うっ……」 「……掃除終わったら買い出し行くから荷物持って、自転車無いから」 「う、うん」
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