320人が本棚に入れています
本棚に追加
夕日に照らされる中、汗を流しながら走る姿はとても美しい。いつしか、その姿を美術室からスケッチするのが日課になっていた。
そんなことをしていてバレないかって?
ご心配には及びません。なんたって美術部員は私一人だから。
部活の存続の危機だというのに、この状況をありがたいとさえ思っている私は
部長失格なんだろうけどそんなの関係ない。
私の絵が描き終わると同じくらいに彼女の部活も終わる。スケッチブックを鞄にしまい、美術室を出た。
もう外は薄暗くなっていた。
靴を履き変え門をくぐると、前方に同じ学校の生徒の集団が騒がしく歩いていた。
「あっ....」
どうやら陸上部の部員たちみたい。もちろんその中に彼女もいる
ここまで毎日スケッチしていれば、名前と学年くらいは知っている。
2年F組 金本詩織(カナモト シオリ)
実を言うと私も2年。
でも彼女がF組なのに対して、私はA組。
教室の階が違う為、ほとんど顔を合わせることもなければ話す機会なんてない。だから多分、彼女は私を知らない。でも、そっちの方が好都合なのかも知れない。
そんな事を考えていると、いつの間にか駅に着いていた。
彼女は電車。私はバス。
ここでお別れ。
「今日もお疲れ様。また明日ね」
聞こえるはずのない別れの言葉をつぶやき、反対方向へ歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!