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「....」
沈黙が続いてから、どのくらいの時間が経っただろう。
「あのさ」
長い沈黙を破ったのは凛。
「体調は大丈夫?」
「はい」
「熱は?無いの?」
「はい」
実際は体調不良は嘘だから、心配してくれている凛に申し訳ない。
「久しぶりだね」
「えっ?」
突然話が変わるから驚いた。
「8年ぶりかな」
「あ、うん」
「......」
再び沈黙。
このままじゃだめだ。
もう逃げちゃダメ。
ちゃんと、向き合わなきゃ。
「ごめん!」
8年分の気持ちを全力でぶつけるために、日本の伝統的文化である土下座をして謝る。
「ちょっ、華」
「いまさら謝ったって遅いけど!私、自分勝手だった。凛のこと考えないで…言い訳なんてしない。私は最低なことした…。本当にごめん!」
凛は今どんな顔をしているんだろう。顔を見ることが怖くて、ひたすら床に額をつけるしかできない。
「顔を上げて華。お願い」
「でも…」
胸が痛くなるほど優しい声。
もういっそのこと罵声を浴びせてくれた方が気が楽な気がする。
「私ね、転勤するって話が決まったとき社員名簿を見せてもらったの。そこで華の名前を見つけて、顔写真もあったから間違いなく華だってわかった。それでね、断ろうかって考えた。でもそれじゃあ8年前と同じことをするって...」
重い頭を上げ、凛の顔を見ると泣きそうな、寂しそうな、色々な感情が混じっている。そんな顔をしていた。
「同じこと?」
「私、あの時本当は転校しない予定だったの。」
「え?」
「予定では両親が引っ越しして、私は祖父母のところに残るはずだったの。華と離れるのが嫌で。でも、あのことがあって...私怖くて」
「怖い?」
「フラれるのが。華の口から"普通の恋愛がしたかった"って言われるのが怖かった..だから」
「私から離れた?」
凛はコクンと首だけを動かして俯いてしまった。
まさか凛がそんなことを考えてたなんて。
凛は私よりも大人で、そして弱かった。
「ごめん。凛ごめん」
「私もごめん」
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