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◆
休憩を終えた後もキャッチボールを続けた。この量だと、しばらく腕が上がらないだろう、そう身体が教えてくれている。
「あの、さ」
不意にマネージャーが声を発した。
「なに?」
「お願いがあるんだけど、さ」
言いにくい事らしい。何を願うのか、俺には予想が出来なかった。一瞬、愛の告白みたいな空気もあったが、それはちょっと違うだろうとも思ったため、余計にわからなくなった。
「その……キャッチボールが終わったらさ、その……」
「なんだよ。はっきりしろって」
「そのっ、グローブを、譲って……もらえないだろうか?」
意外な申し出だった。
左手にはめているグローブ。黄色は既にくすんで黄土色になっている。しかし、手入れは隅々まで行き届き、汚い印象は受けない。むしろ、革独特の光沢を発し、使用者の思い入れが一目で感じ取れる。
「無理なお願いだとは承知してる。でも、君のプレーは私を惹き付けるものがあった。それをもう観れなくなるのは寂しい。だから……」
「やるよ」
マネージャーが、えっ、と声をあげる。
「だからやるよ。高校で野球やるとしてもグローブ替えなきゃいけないし。それに、提案に勇気がいるほど欲しいんだろ?だから、やるよ」
俺キャッチャーだからミットあればいいし、と付け加えて。
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