■でーたふぉるだ

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右手があたたかくて、左手ににぎりしめたままの携帯をさりげなくポケットにしまった。 すこし濁ったきれいな色の寄せ集めは、すぐに薄闇に染まって清らかな一色の光。 ああ。 その人はいつでも物語の中で、隣に僕を迎えてくれる。 誰もいない舞台にふたりきりで遊んでいる時みたく、人の目をおそれずにいる。 僕は守られている。 どうしたものか。 泣きそうになるのはいつだって僕のほうで。 繊細過ぎる計り知れない人は、前を見て笑う。僕を見て笑いかける。 幸せの切なさを憎んでいるくせに。 幸せを疎んじているくせに。 いつもいつもしあわせを甘受する。 疎ましく顔を歪めてしまえばいいのに。 ぼうっとした顔ですべてを受け入れてしまう。 こんな赤は嫌いなくせに。 滲んだ汗が歪んだ髪を張り付けている。 いつか僕の刃もそんな顔して受け入れてしまうの。 誰かの刃も受け入れるの。 死が色濃く響く刃も変わらず、ぼうっと理解しないままに受け入れてしまうの。 ひんやりと凍えた指先を無駄に強くにぎりしめた。 他の力に触れてしまわないように。 こんな夏の日に見知った人が凍えてしまわないように。冷たい汗をかくことのないように。 もらった説明書はなにひとつ忘れはしない。 添える僕はすべてをみつめるから。 理解不能なあなたをこの胸に焼き付ける。
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