■三分ネタに愛をしのぶ

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サンダルで擦れた足が痛い。 傷付いている事には気付いていたけど。 普段日にさらされることのない皮膚が赤くて、むしろみずみずしく新鮮さすら感じる。肉の赤、血の赤。 人並みと呼べるようになった身長に合わせて、ほんの少しのヒール。 夏らしさを示すシンプルな装飾。 女の子、を示す記号。 ほんの少しの躊躇いと気遣いを見せながらも、僕に割り振られた役。 理由ならいくつかある。 僕の相方はサンダルを履いて歩けない。 僕が女装することで得られるリアクション。 たぶん、僕が嫌がれば相方が引き受けるんだろうと思う。 嫌がる権利は僕にはある。 それでも嫌がらなかったのは、 相方のネタに自信があるから。 相方が求めるなら応えたかったから。 嫌な事ひとつくらい引き受けたかったから。 痛みひとつくらい引き受けたかったから。 僕くらい当たり前の顔をしてやりたかったから。 たぶん誰かは配役に疑問を投げかける。 当たり前の顔して。 身長だとか体躯の問題として。 でも僕らの関係性じゃ、こうあることが当たり前だって事見せ付けてやりたくて。 僕はサンダルを掃く、スカートを着る、にっこりと微笑む。 僕より頭ひとつ低い、スニーカーの相方を見詰めて、理不尽なくらい甘い言葉を投げかける。 ほら、みんな笑う。 僕らは演技者。 相方が満足そうにはしゃいで僕をほめる。 嬉しくなって僕もはしゃぐ。 あなたのためならなんだって舞台の上でこなしてやる。 だけどそんなこともどうだってよくて。 偽物の髪を撫でる手に、僕は俯き口をむすんだ。
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