序 章 文明は痕跡を残す

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校門は、閉まってはいなかった。 開放されっぱなしの門。 少年は一歩、一歩とその校舎に足を踏み入れる。 少年は、校庭の中央まで歩くと、そこで足を止め、そして瞳を閉じる。 それは、『魔法』だった。 少年は、何の仕草も見せずに、『魔法』を発動させる。 次々と、まるで思い出を探るように頭の中に情報が流れ込んでくる。 「校舎は全て合わせて三棟。特殊教室の集まる《二棟》に、教室の集まる《一棟》。そして、一際大きいのは、部室などが集まる《三棟》・・・。なるほど」 まず校舎の状況。 そして次に現在の状況。 「・・・? 何だ、この監視カメラの多さ」 少年は目を開けずに呟く。 彼の頭に流れてきた情報は、凄まじく不自然だった。 それは、『魔法』という法則があるのに、監視カメラがあり、そしてその監視カメラが全て稼働している、という事だ。 『科学』がほぼ消滅した今、『科学』を操作できる奴がいるのか。 少なくとも、普通の学生には無理だ。 恐らく、その専門的な勉強を受けた人間でなければ無理だ。 そして、彼はその勉強も受けていた。 そこら辺の学者よりは『科学』に詳しい。 「ヒッ」 少年は、思わず笑みが零れてしまった。 「何だ、何だ、コイツ等は! まるでこの俺を歓迎してるみてえじゃねえか」 そう。 それは内部構造にあった。 この建物には地下がある。 その地下に、十人近い人間がいた。 気の抜けた、まるで緊張感のない人間が。  
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