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しかし彼女がそんな目をしているのは、何も生きる気力が無くなったとか、そういうワケではない。
ただ自分が生きていく上での理由や目的が見当たらないだけだ。
そして彼女がここにいるのは、罪を犯したワケではない。
この収容所は、刑務所としての役割と、何か事情のある者を保護する役割がある。
舞夢の場合、後者だ。
実は彼女には、あまり世間には出回ってはならない秘密があった。
ガタガダンッ!! と、静かだった教室に、まるで何かが崩れ落ちるような音が鳴った。
それは、机と椅子が数個倒れる音だった。
その音源には二人の少年がいた。
一人はガタイの良い少年で、もう一人は病弱そうな少年だった。
大柄の少年は病弱そうな少年の襟首を掴んでなにやら怒号を上げていた。
「おいテメェ今何つった?」
対して病弱そうな少年は、床から完全に足を浮かせた状態で
「ふ、フン。ゴミをゴミといって何が悪い」
見かけによらない自棄な言葉だった。
その言葉を合図に、大柄の少年が動いた。
その大きな拳に、真っ赤な霧のような不定形の気体を纏わせ、病弱そうな少年の顔に殴りかかる。
「無駄だね」
病弱そうな少年は、明らかに不利な立場から、尚余裕に言葉を放つ。
すると、大きく、魔術的な気体を纏った拳は、少年の眼前で停止した。
「て、テメェ。何をしやがった!?」
大柄の少年は驚愕をあらわにした。
それは、自らの放った拳から赤い気体が消え、尚かつ拳までもその制御が効かなくなったからだ。
「ふん。僕の一族は『気体』を主流にしてるからね」
『気体』。それは、空中に漂う、手に掴む事の出来ない不定形なモノ。
それを自在に操る魔法を主に使うという。
「“窒素”って知ってるかい? 空気中に最も多く含まれる気体だ」
「クソ。それを操って俺の拳を固めたってワケか」
こうして形成は逆転した。
これが“魔法”の世界。
外見や力だけでは上に立つ事の出来ない世界。
「アンタら、あんまり不快なモン見せつけないでくれる?」
言ったのは、狩野 舞夢。
ベリーショートで、スリムな体型の少女。
彼女は、自らの席から立ち、二人の少年の近くに来た。
「あ? 何だテメェ。女子供が首突っ込んでんじゃねえよ」
大柄の少年が空中に拳を停止させたまま言う。
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