第 八 話

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「……結婚指輪は貴女と一緒に選びたかったので、結婚してから贈るのはおかしいですが、それは婚約指輪として受け取って下さい」 掌にある指輪を見ていた顔を上げ、彼を見上げると、見慣れた無表情の顔があった。 「…何で、そんな顔なんですか?」 婚約指輪を贈るという本来甘い筈の場面で、無表情でいる彼に思わず不満が零れた。 「…何故、今、顔の造りに対する不満を言うんですか?」 久しぶりに見た怪訝な顔は、不愉快さが少しだけ滲んでいた。 「総一さんの顔の造りは素晴らしいですよ。 それはもう完璧と言って良いほどに。 私が言ったのは、この場面で何故無表情なのかって事です。 愛してもいない私に婚約指輪を贈るのは、不本意だからですか?」 貰えるとは思っていなかった婚約指輪。 一緒に買いに行きたいと言った結婚指輪。 嬉しかったのに、無表情の彼を見て、これは形式だけの、ほんの少しの気持ちも篭ってない贈り物と言葉だと知り、嬉しい気持ちが一瞬で悲しい気持ちへと姿を変えた。 睨むように見上げていた彼の表情が戸惑いと困惑の表情へと変わり、その顔は直ぐにぼやけて見えなくなった。  
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