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「……何の冗だ…」
顔を引き攣らせる私の言葉を遮り、彼は微笑んだ。
初めて見た彼の笑った顔は、とても冷たい微笑みだった。
「冗談ではありません、私は本気です。
貴女の返事一つで、多くの人間が路頭に迷う事になるでしょう。
それは貴女も例外ではありませんよ」
室内の温度を下げてしまいそうな程冷たい声と表情に背筋がゾクッとした。
「良くお考え下さい。
会社と社員、その家族と貴女の家族。
会社を失い涙する人間の数と貴女一人の人生、その二つを天秤にかけた時、貴女の天秤はどちらに傾きますか?
貴女の返事一つで、多くの人間の人生が狂います。
それを踏まえた上で断りますか?」
『俺には会社と社員、それにお前達を守る義務がある』
そう話す父を誇りに思っている。
『優姫、会社の為だ』
父の声が聞こえた気がした。
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