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私が断れば、彼は父の会社を潰す。
きっとそれは冗談なんかじゃない。
父と同じで彼もまた【会社の為】なら、何でもする。
野心ある男はそういうものだと、嫌というほど知っている。
……沢山の人の人生と私一人の人生……
天秤にかけた時、どちらに傾くかなど決まっている。
結婚は愛する人としたかった。
愛のある家庭を築きたかった。
母のような道は歩きたくなかった。
貴方は、私を、
愛してくれますか?
愚問、よね…
【会社の為】に【結婚】すると言う彼は、【私】になど興味はない。
彼にとって大事なのは【会社】だけ。
無言のまま婚姻届とボールペンを引き寄せ、空欄を埋めていく。
最後の一文字を書き終えた時、私の頬を涙が伝った。
静かに目を閉じ、小さく深呼吸してから再び瞼を上げ、目の前に座る彼を見据えた。
「…愛する人と、愛のある結婚をするのが私の夢でした」
私の言葉を聞いても、彼は無表情のままだった。
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