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「私は夢を諦め、貴方は夢を手に入れる」
頬に涙の痕を残したまま、静かに淡々と話し出した私を見て、彼の無表情が怪訝そうな表情へと変わった。
「私は物ではありませ。
感情を持つ人間なんです。
それをちゃんと理解して下さい」
テーブルの上を滑らし、記入を終えた婚姻届とボールペンを彼の前に戻した。
私は道具ではない。
人形ではない。
感情のある、人間。
会社の為に頑張ってくれている社員、会社の為に人生を捧げてきた父、愛など無かったのに父に一生添い遂げると決めた母、後継者として頑張っている弟、その全ての人の人生を私が壊すわけにはいかない。
誰も壊してはいけない。
権力とお金がある彼でも、壊してはいけない。
「貴方の信念の為に、貴方の力を正しくお使い下さい」
この人が尊敬出来る人であって欲しい。
それは、夢を捨てきれない私の細やかな願い。
「…明日、貴女のお宅へ伺います。
時間がないので今日はこれで失礼します」
私の話しには一切触れずに婚姻届を仕舞うと、彼はそう言い残し座敷を後にした。
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