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「…嫌よ。
私は恋愛結婚するの。
お見合い結婚なんて絶対にしないわっ!」
怒鳴った私を父は静かに見つめ返してきた。
『見合いだけ』なんて絶対に嘘。
お見合いをすれば、次ぎは『会社の為に結婚しろ』って言い出すに決まっている。
先々代が築き、先代が拡大し、三代目である父は地位を確立した。
先代である祖父が大きくした会社を、揺るぎない確かなものにする為に父は自身の人生を捧げてきた。
父の理念では、会社の為に自身を捧げるのは当然の事、なのだ。
「優姫、お前の返事一つで、会社の運命が左右される。
お前の返事一つで、社員とその家族の生活が左右される。
よく考えて返事をしなさい」
そう告げると、父は静かに席を立った。
幼い頃は仕事ばかりの父が嫌いだった。
でも、物事がわかるようになってからは、尊敬してきた。
『お父さんはね、私達家族と沢山の人達の為に頑張っているの』
いつか母が優しく愛おしそうな顔をして、父の事をそう話していた。
「姉さん」
弟に心配そうな表情を向けられ、私は微笑み返した。
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