第 一 話

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「私はお見合いに来ただけで、結婚する気はありません」 はっきり拒否の意を告げ、婚姻届とボールペンを押し返すと、彼は無表情のままちらりと腕時計に視線を向けた。 時間を確認した彼の表情が僅かに険しくなった。 「サインして頂けないのですか?」 そう問う声に微かな苛立ちが混じっていた。 「貴方と結婚する気もないのに、サインは出来ません」 「それは私が誰か分かっての台詞ですか?」 「貴方が誰であろうと、サインは出来ません」 玉の輿にも会社の利益にも興味はない。 父とは見合いだけという約束である、結婚などするわけがない。 それもこんな無愛想で威圧的な、良い印象など皆無な人と結婚などありえない。 「貴女にはサインして頂かなければならないので、少々強引な手段に出させて頂きます」 無表情のままそう前置きすると、彼は切れ長の眼を僅かに細めた。 それは私を睨んでいるように見え、威圧感が増した。 「そこにサインして頂けないのであれば、貴女の父上の会社を潰します」 出会って二十分。 見合い相手に脅された。  
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