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「私はお見合いに来ただけで、結婚する気はありません」
はっきり拒否の意を告げ、婚姻届とボールペンを押し返すと、彼は無表情のままちらりと腕時計に視線を向けた。
時間を確認した彼の表情が僅かに険しくなった。
「サインして頂けないのですか?」
そう問う声に微かな苛立ちが混じっていた。
「貴方と結婚する気もないのに、サインは出来ません」
「それは私が誰か分かっての台詞ですか?」
「貴方が誰であろうと、サインは出来ません」
玉の輿にも会社の利益にも興味はない。
父とは見合いだけという約束である、結婚などするわけがない。
それもこんな無愛想で威圧的な、良い印象など皆無な人と結婚などありえない。
「貴女にはサインして頂かなければならないので、少々強引な手段に出させて頂きます」
無表情のままそう前置きすると、彼は切れ長の眼を僅かに細めた。
それは私を睨んでいるように見え、威圧感が増した。
「そこにサインして頂けないのであれば、貴女の父上の会社を潰します」
出会って二十分。
見合い相手に脅された。
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