第 六 話

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食器に始まり、電気スタンドにジュエリーボックスに壁掛け時計と部屋に置く雑貨を一通り選ばされ漸く買い物終了。 「次はケーキですね」 車に乗り込んで直ぐにそう言われ首を傾げた。 「ケーキ、ですか?」 「お忘れですか? 貴女が先日ご友人と一緒に行った、ケーキの美味しいカフェへ案内して下さい」 そう言われて思い出した日記の内容。 この人は私とした社交辞令のような約束を全て覚えているのだろうか? 「あれは社交辞令だと思っていました」 「どうしてですか?」 怪訝な表情で問われ、言葉につまる。 どうして… 日記の中の何気ないやり取りだったから、 家で顔を合わせる事が無い程、彼が忙しかったから、 私に行く気がなかったから。 「……日記の中の何気ない話しだったから…」 口から出た声は小さく、取り繕うような理由は、後ろめたさがあったから。 私が忘れていた話しを、本気にしていなかった話しを、彼は覚えていて、ちゃんと約束を果たそうとしてくれていた事が、私を責めているような気がした。  
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