第 六 話

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「優姫さん」 優しい声で呼ばれ、彼を見上げるとそこには困ったような悲しげな顔があった。 「…私と過ごす時間は苦痛ですか?」 そう問う声が苦痛を堪えるような苦しげな声。 胸が痛むのは罪悪感から。 私はこの人を傷つけている。 傷付かない人なのどいないのに、この人は傷付かないと思い込んでいた。 ゆるゆると首を振って否定すると、彼は小さく息を吐いた。 それはまるで安堵の溜め息のようだった。 「カフェへ案内して頂けますか?」 「はい」 静かな車内、時折交わす言葉は道案内の言葉だけ。 日記でどんなに言葉を交わしても、会えば何を話していいのかわからない。 それは彼も同じなのかもしれない。 少しは縮まった気がしていたけど、私達の距離は思った以上に遠いのかもしれない。 「ここなんですけど…」 車内から眺めたカフェは以前に来た時とは違う外観で私達を出迎えてくれた。 「…定休日、ですね」 ドアの前に置かれた小さな黒板に書かれた文字を彼が呟いた。  
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