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「いよいよもって、万策尽きた…かくなる上は、城より討って出て上総介が首、狙うまでよ!」
盛豊が、意を決したようにつぶやく。彼は、信長に対して最後の決戦を仕掛ける気なのだ。
城外には、相変わらずけたたましい程の銃声が鳴り響く。事ここに及んでも、信長の軍勢は攻撃の手を休める事を知らない。
「伊右衛門、次郎右衛門、心してよう聞くのじゃ」
二人の息子を前にして、盛豊は言い聞かせるように話し始める。
「これよりワシは、お館様をお守りする為、城を出て清須、犬山の軍勢と一戦交える所存じゃ」
「それならば父上、我らも一緒に参りまする!」
「えぇ、共に山内家の心意気、上総介に見せてやりましょうぞ!」
盛豊の息子達も、すでに覚悟は出来ているようだ。
「ならぬ!其方らは、父が城より打って出たのを合図に城から落ちよ…」
もはや、盛豊の決意は揺るぎなかった。息子達は逃がし、自らはこの戦で命を散らす覚悟なのだ。その証拠に、彼の表情には何処か清々しささえ感じさせる。
「但馬よ!お主、往くのか?」
そこに現れたのは、堀尾泰晴であった。長年、共に岩倉織田家を支えて来た朋輩である。
「ふむ、ワシはもう帰る城さえない故な…」
盛豊の居城、黒田城は、前の戦で信長側の襲撃によりすでに失われていた。しかも、その時に長男の十郎も討ち死にしている。
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