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「あれー? 裕太、今日は珍しく早いね。雨降るんじゃない?」
軽そうなスクールバッグが机に置かれる音と同時に、教室の空気がパァッと明るくなった。
声の持ち主はもちろん、柊だ。
「いつも遅刻してるみたいな言い方すんなよな!」
「遅刻してるじゃん!」
柊が入ってくるだけで、空気ってこんなに変わるものなんだな。
周りを見渡しながら、妙に感心する。
自分の存在をアピールしてるつもりなのか、声や身振りが大きくなっている男子。
……口を開けたままニヤけてるやつもいるけど。
女子はといえば、男子から人気のある彼女を妬む様子もなく、笑顔で挨拶なんかしてたりする。
柊が教室に入ってくるだけで、教室に活気が出てきたって感じ。
「おーい。はるちゃん、どうかした?」
「へ?」
のんびりと人間観察していると。
目の前で柊がひらひらと手を振ってきて、思わず間の抜けた声を出してしまった。
っていうか、また呼ばれた?
はるちゃん、って……
「ねぇ、やっぱりはるちゃんだよね? 昨日寝ぼけたまま呼んじゃったから、人違いだったら恥ずかしいなぁって思ってたんだけど……」
そう言って同意を求める柊に、俺は苦笑するしかなかった。
柊の言う“はるちゃん”が誰かはよくわからない。
だって、俺のことを“はるちゃん”って呼ぶのは、10年前まで住んでいた街でよく遊んでいた同い年の“男の子”だったはずなんだ……。
「多分、人違いだと思うけど……」
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