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この世界は、どうも自分に合わない気がしてならない。
他人から見りゃ「どこが?」って話だが、そんなものは自分でさえ分かっていないのだから説明のしようがない。
友人の一人はこの世界は自分に合わないと言って、夢の自由の国へと旅立った。
その行動力には脱帽だが、アイツの場合はそれが最善の道だったのだろう。
この世界は確かに、アイツには合っていない。
というより、この世界ではアイツを縛り付けてしまう。
だからこそ自分は何も言わず、アイツの背中を押したのだ。
*
「中丸、遅いよー」
「ごめんって。電車が遅れてたんだよ」
「ほんとかなー。ただ来たくなかっただけじゃないのー」
友人である増田が、けらけらと笑いながら自分に疑いをかけている。
まぁ、あながち増田の言う事は間違いではない。
大学という鳥籠のようなこの場所に、来たくなかったと言えば否定はできない。
自分で望んで入っただいがくじゃないかと言われても、否定はできない。
この世界には、肯定しか存在していない。
否定はほんの一握り有るか無いかだ。
「今日の講義は二つしかないのに、一つサボったら意味ないじゃん」
「分かってるって。来週はちゃんと出るよ」
「ほんとかなぁ…。中丸はすぐウソつくからなぁ」
今もなおけらけらと笑っている増田に対し、少しだけ荒い口調で「ほんとだよ」と伝える。
すると増田は面食らったのか、驚いた表情を一瞬見せたかと思いきや、すぐまたにこやかな顔を取り戻した。
こいつのこういう所が羨ましいと、思ったことが多々ある。
自分はすぐに感情が表情に表れてしまう方だから、言いたい事もウソも直ぐにバレてしまう。
伝えたくても伝わるという点では全く嬉しくなんかない。
教室の前方の席で女子たちが群がりながら読んでいる、ファッション雑誌が目にとまった。
でかでかと表紙に載っている男性モデルの、笑顔の写真。
彼を表面上かっこいいという声は他方から聞くが、その中身までは誰もが口を噤んだ。
これぞ現代人のいう、顔だけが好きと言うやつだ(こういうことを言っては友人たちに老人扱いされる)。
中身の分からない人間を好きになって、何が楽しいのだろう。
それは永遠の宿題のようなものだと、思っていた。
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