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「…あの」
目の前の彼が声を発し、はたと我にかえる。
ここは道の真ん中。
たくさんの人々が行き交う街中の、道のど真ん中。
いつまでもこのまま見つめ合っている訳にもいかず、お互いにどう切り出しをしようかと迷っていた。
その時だった。
「…あ、ごめん。怪我とかしなかった」
「大丈夫です」
「そっ、か。…あ、…じゃあ。うん。バイバイ」
「うん、ばいばい」
お互いに手を振り合い、道を分かれた。
狭い路地に入りアパートを目指す道のりで、思っていたのは彼のこと。
どこか懐かしくもあり、愛しささえ感じてしまうこの感情が何なのか分からなかった。
…分かってはいけない気がした。
*
「…そうだ、帰ろう」
突然日本食が食べたくなり、飛び出してきたあの場所に戻ろうと決意した。
他にも色々理由があったはずだけれど、詳しくは思い出せない。
今のところの名目は、日本食が食べたくなったということにしておこう。
すぐにチケットを取って飛行機に飛び乗り、自由の国を後にした。
*
着いた時に友人が空港で待っていてくれたことに、感謝。
突然行くと言いだした俺の背中を押し、突然帰ると言いだした俺を迎えに来てくれている。
まるで恋人のようだと言うと、「気持ち悪っ」と言って顔をしかめた。
少し、イラっとした。
自由の国での出会いを友人に放すと、友人も同じ様な体験をしていたことが判明。
もう一人の友人の所在を聞くと、モデルをやっていると判明。
アイツならやりかねないと思っていたので、なんとなく納得。
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