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「つまりは…“恋”ってやつでしょ」
友人の友人が溢した言葉が、やたらと胸に残った。
ここ最近、来いというものから遠ざかっていたのに、肩がぶつかって出会っただけの他人に恋をするなどあり得ない。
だが、この胸のもやもや感といい、目が合った時のあの衝撃といい、恋に落ちるときと似ていた。
ただ。
あの子はどう見たって、…“男”だ。
正真正銘、自分についているものは彼にもついている訳で。
*
「あ、山下くん!」
中丸の友人が一際大きい声でダレカを呼んだ。
その声は学食内全体に響き渡り、複数名の会話がストップした。
すぐに静寂はかき消され、学食内は騒がしさを取り戻した。
呼ばれたと思われる人物は、酷くゆっくりな足取りでこちらに向かってきた。
何故だか少しだけ、イラッとした。
*
「俺の友達の山下くん。みんなにはなぜか山Pって呼ばれてるんだ」
ニコニコ顔の増田(確かそんな名前))に紹介された山下という男は小さく会釈をし、聞きとりにくいほどの声で「どうも」と言った。
すごく、印象的な笑みの持ち主だった。
*
「…行っちゃった」
山下とやらは、紹介された後小さな挨拶を残し、去って行った。
寂しそうにその背中を増田は見送っていた。
中丸はこちらの話にはお構いなしにカレーを食い続け、米粒一つたりとも残さず平らげ終えた。
「ごちそうさま」
「うわ!また綺麗に食べ上げたねぇ」
「うるせ。お前が汚いんだろ」
「違う!おいしそうに食べた結果!」
「へぇ」
必死な増田となぁなぁの中丸のやりとりはいつ見ても、楽しい。
構って欲しくて仕方がない増田とその増田がうざったくて仕方がない中丸。
増田が絡まない時の中丸は、一言で言えば真面目なやつだ。
真面目と言うよりも、こう…物静かな
「増田うるせぇ!」
…撤回してい?
中丸は、口悪い腹黒だ。
猫かぶりと言った方が当たってるかも。
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