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その日は何時もと変わらない、いつも通りの日だった。
別段取りたてて何が悪いとか、仕事が忙しいといったこともなく、ただ静かな時間が流れていた。
自分の周りではあわただしく過ぎていく時間でも、自分にとってそれは無声映画を見ているような時間でしかなかった。
例え街中で後ろ指を指されようとも、自分の正体― 言うほどの地位もない ―がばれようとも、気にさえならず。
言うなれば、“心ここにあらず”だ。
*
「たぐちくーん。撮影終わったから帰っていいよー」
なんていうマネージャーの言葉も、右から左へ。
呆けたまま撮影スタジオの窓から見上げた空の青さに、感動している自分が居た。
「たぐち、くん。…具合でも悪いの」
ただ呆けていただけの自分を心配して声をかけてくれる、マネージャー。
首を横に振れば、「よかった」と言って微笑んだ。
この人は好い人なのだと、心のどこかが言った。
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