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「明日は朝の9時から雑誌の撮影が入ってるよ。迎えに着いた時メールするから、ちゃんと確認してね。」
「…はい。じゃあ、また」
「ん。気をつけてね」
他のマネージャーは普通こういう時に車を出すのだろうけれど、そういった野暮なことは面倒くさいので、初めから車での送迎を断っていた。
最近ようやくしつこさに折れ、迎えの時にだけ車を出すということになった。
面倒くさいというより、私生活に干渉をされたくないという気持ちの方が強いのだけれど。
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マネージャーと別れ、昼間の一番騒がしい時間帯の街中を逆走し、家路を急ぐ。
iPodから延びるイヤホンからはお気に入りの曲。
曲のリズムを刻みながら、陽気な足取りで家路を歩む。
それでも、ふとした瞬間に思うことがある。
この世界は、今日も冷たい。
世界も世間も他人も空気も、皆冷たい。
冷たく、色もない。
日常はまるで、無声映画を見ているような感覚さえ起こさせる。
普段街を歩けば見知らぬ人には後ろ指をさされ、仕事をすれば思っても言ってもいないことを週刊誌に書かれ。
最近ではありもしないスキャンダルを作られる始末だ。
この世の中に本当の自分を分かっている人物など、皆無だ。
最早、その必要性ですら感じていない。
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